百道(ももち)から

考えの切れっぱし

声を大きくすることばかりが、うまく伝える術じゃない

相手とのきめ細かなコミュニケーションを意識し始めたのは、お茶のお稽古を少しかじったときだったろうか。相手との距離、体の向き、角度、話す間合い、声量・トーンなどを丁寧に意識していけば、相手との心地よいコミュニケーションを図れることを知った。

そんなことを思い出したのは今日、小学校の絵本の読み聞かせを終えた私がベテランの大先輩に質問をしたためだった。「教室の奥まで声が届いているか心配なんです」という私に先輩は、「大丈夫。声量ではない。たとえ少々声が小さくとも子どもたちは、ん?と耳を傾ける準備ができているからきっと届いている。第一、絵本には引き込む力がある」と教えてくれたのだ。

その方は、続いてこういう話をしてくれた。小学校を訪れていたある日、ワイワイ賑やかな子ども達を静かにさせるため、女性の教師がわざと、声を出さずに口パクでパクパクしていたところに遭遇したという。そうすると子どもたちはえっ?とこちらに注意を向け始め、いつしか教室はシーンとなったのだ、ということを関連して教えてくれた。子どもたちには力がある。その力を信用するべきだし、そもそも子どもに対して私たちが何かを押し付けるようであってはいけないと諭してもくれた。いろんなことに通じる、ありがたくて大切な言葉だ。

同時にただ声を張り上げるだけが伝えることではないことを知った。もちろんアナウンスや話す技術があればいうことはないが、お茶のお稽古のそれのように、押したり、引いたり、だまったりといろんな方法がある。一瞬を大切にして泳がなくては。