百道(ももち)から

考えの切れっぱし

映画『LOVE LIFE』

 この物語の鍵は『オセロ』かなと思いました。オセロといえば白黒。人の暮らしというのはオセロのようにはいかない、これが私が受け取ったメッセージかな。

 子連れで再婚をした女性・妙子が主人公なのだけど、近所に住む義理の父母とは決して良好な関係とはいえず、また夫の職場にいる元カノ、妙子の元夫など、普通で穏やかな団地というシチュエーションのなか、いろんなことが起きる。不安定な関係の上に、また不安定なことがおきて、上から一生懸命蓋をして、なかったことにしようとしても結局は溢れてでてきてしまう。

 うわぁ、大変ね、となるのだけど考えたらこれって普通のことで、ひと皮剥けたら誰もがこういうことを抱えている気がする。みんな善人じゃないし、いいひと風に折り合いがつけられるばかりじゃない。白黒ではなく、誰もがグレー。オセロのようにマウントをとりつつ、一方が一方を呑み込むことなんてできなくて、グレー同士で一緒に生きる。そんなに簡単に交わることはできないのだ。

 人は誰もが不完全。だから愛おしいんだ、なんてどこかで聞いたような言葉が頭に浮かんだとき、大林宣彦監督のあるエピソードを思い出しました。夫婦仲の良さの秘訣を尋ねられて、相手の欠点を愛することだとおっしゃっていたとか。不完全なところ、グレーなところを愛することから始まるのかも知れない。

 この物語で描かれるのは、結果ではなく、経過なのです。だから刺さる。

 余白のように感じる映像と、映画の発想の元となったとされる矢野顕子さんの曲『LOVE LIFE』の間奏を一緒に束ねて感じていたい作品でした。